大判例

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東京高等裁判所 平成8年(う)1966号 判決

被告人 江嶋睦子

〔抄 録〕

1 所論は、要するに、次のようなものである。すなわち、被告人は、捜査段階での取調べに際し、黙秘権を告知されず、しかも、被告人の体調が不良なときに、捜査官から、怒鳴り付けられたり、種々の利益誘導を受けるなどして、自白を強制されたものであるから、右のような違法な取調べの結果作成された被告人の捜査官に対する各供述調書は、その任意性がないものである。したがって、被告人の右各供述調書を証拠として採用して取り調べた原審の訴訟手続には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるというのである。

2 そこで、原審記録及び証拠物を調査して検討すると、原審において、被告人(原審弁護人)が、検察官から証拠調べの請求があった被告人の司法警察員(原審検察官請求証拠番号乙第一号ないし乙第五号。以下、甲乙の番号は、原審検察官請求証拠番号をいう。)及び検察官(乙第六号)に対する各供述調書のうち、乙第一号及び乙第五号の各供述調書の一部を証拠とすることに同意するとしたものの、右各供述調書の同意部分以外の部分及びその余の各供述調書は全て証拠とすることに同意しないとしたが、一部同意した各供述調書の不同意部分及び全て不同意とした各供述調書(以下「各不同意調書」という。)がいずれも、刑訴法三二二条一項に基づき、証拠として取り調べられたことは、所論指摘のとおりである。しかし、原判決は、証拠の標目の項に、乙第一号及び乙第五号の各供述調書のうちの証拠とすることに同意した部分を証拠として掲げているものの、右各供述調書の不同意部分及び各不同意調書は標目としても掲げておらず、また、補足説明の項においても、証拠説明に当たり、右各供述調書の不同意部分及び各不同意調書中の被告人の供述を犯罪事実認定の根拠とはしていないのである。すなわち、原判決は、右各供述調書の不同意部分及び各不同意調書を有罪認定の証拠資料として一切用いていないのであり、したがって結局、これらを証拠として取り調べたことにつき、仮に所論指摘のような訴訟手続の法令違反があるとしても、原判決では、これらを事実認定の証拠資料としていないのであるから、所論指摘の訴訟手続の法令違反が判決に影響を及ぼすものでないことが明らかである。そうすると、所論は、刑訴法三七九条に定める要件を欠く主張というほかなく、右各供述調書の不同意部分及び各不同意調書を証拠として取り調べたことにつき、訴訟手続の法令違反があるかどうか具体的に検討するまでもなく、採用の余地がない。論旨は、その前提において失当である。

(松本時夫 岡田雄一 高橋徹)

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